お知らせの記事 news -
膝の水を抜くと癖になるってホント? -膝の水の正体は?-
あやせ駅前整形外科・内科では、膝に関するお悩みで来院される方が数多くいらっしゃいます。
膝の痛みは高齢者に多いものと思われがちですが、実は年齢層は学生さんから高齢者まで幅も広く、ケガやスポーツなど、習慣的な負担で痛める方、長年の積み重ねで起こす関節の変化など、原因も様々です。
症状としては、炎症による膝の痛みや筋肉など周囲組織の痛み、関節自体に水が溜まる、などが多くみられます。
その際、整形外科で行われる処置として、膝の関節内に溜まった水分を抜くというものがあります。
患者さんからは「膝の水を抜くと癖になるっていうけど大丈夫なの?」とよく聞かれるのですが、、
この話、患者さんの間では広く認識されているようで、確かに皆さん、心配になりますよね?
では本当に膝から水を抜いても大丈夫なのでしょうか?
結論から申し上げますと、膝の水を抜いても癖にはなりませんのでご安心ください(笑)
それではなぜ、こんな話が広まってしまっているのでしょうか?
今回は、その謎に迫りつつ、膝に水が溜まる仕組みと、その症状に対する対処法などをお話ししていきたいと思います。
【関節ってどんな構造をしているの?】
そもそも関節とはどんな構造になっているのでしょうか?
関節は簡単に言うと、骨と骨のつなぎ目。数え方にもよりますが、人体には約260個もの関節が存在しており、この関節がスムーズに動くことにより人体は滑らかに動いています。
関節のスムーズな動きを可能にするための仕組みはいろいろとあります。
関節同士のつなぎ目となる骨の先端部は、関節軟骨というツルツルした組織に覆われており、骨と骨の間には半月板と呼ばれる軟骨成分でできた組織が、クッション材の役割を担っています。
関節全体は関節包という袋状の組織で包まれており、その内側は滑膜という、読んで字のごとく滑りやすい成分でできた組織で構成されています。
さらにその中にはヌルヌルとした成分でできている関節液という液体で満たされており、関節内部は、滑らかな動きを可能にするための仕組みがいくつも備わっているのです。
【膝の関節に必要な液体「関節液」】
膝の関節の中にも、医学的に「関節液」と呼ばれる液体が存在します。
この液体はどんな方にも存在しており、通常1〜3mL程度の量が膝関節内に存在しています。
この液体には大きく分けると2つの働きがあります。
1つ目は、関節がスムーズに動くための潤滑油としての働きです。
膝関節表面の摩擦係数は0.005~0.02であり、氷と水の摩擦係数が0.03であることを考えると、かなりツルツルであることがわかります。
この関節液が関節内にあることで、膝がスムーズに動いているわけです。
2つ目は、関節軟骨などに栄養を与えるという働きです。
膝の関節軟骨は、荷重を受け摩擦を起こすことにより、少しずつすり減っていきます。
通常、細胞や組織に栄養を与えるのは血液です。その血液を運ぶのが血管なわけですが、関節の表面は摩擦を起こすため、血管があると血管が破けてしまいます。そのため、関節軟骨には栄養を運ぶための血管が存在しません。
そのため、関節軟骨にはごくわずかしか再生能力が無いとされています。
しかし、そのわずかな関節軟骨の再生能力が、日頃の関節摩擦によって起こるすり減りを補っているとも言えます。
では、どんな仕組みで関節軟骨には栄養が運ばれるのでしょうか?
膝関節は関節包という袋状の膜状の組織で包まれる構造になっています。この関節包の内側には滑膜と呼ばれる組織があり、ここから関節液が分泌されています。
この関節液には関節軟骨の再生に必要な栄養が含まれており、これが関節軟骨にしみこむ形で栄養を送っているわけです。
この栄養の中には、ヒアルロン酸やたんぱく質などが含まれます。
さらにこの関節液が軟骨細胞に浸み込むためには、関節の運動が必要とされています。
関節をまったく動かさずにいると、関節液が軟骨細胞にしみ込まなくなってしまうため、軟骨細胞は栄養不足となり、減っていくとされています。
【膝に溜まる水の正体は?】
前述の通り、膝関節は関節包と呼ばれる組織で包まれており、密閉された空間の構造となっています。この関節包の内側にある滑膜と呼ばれる組織から関節液が分泌されるわけですが、この滑膜は分泌する一方で、滑液を吸収するという働きもあります。
そのため、関節内は常に新しい関節液が循環しています。
密閉された関節内の関節液の量が常に一定であるためには、分泌と吸収のバランスが取れていることが重要です。
しかし、様々な原因により滑膜に炎症が起こると滑膜が刺激され、通常量以上の関節液が分泌されてしまいます。そうすると、分泌に対して吸収のスピードが追い付かなくなり、密閉された関節の中には関節液が溜まっていくことになります。
つまり、膝に溜まる水の正体は、この滑膜から通常以上に分泌された関節液ということになります。
【膝に水が溜まる原因は?】
滑膜に炎症を起こす原因のほとんどは病的なものか外傷(ケガ)によるものとされています。
特に多いのが、変形性膝関節症と呼ばれる疾患です。軟骨などの組織がすり減り、そのかけらが滑膜を刺激することから、滑膜に炎症を起こすとされており、中高年の方に多くみられます。
外傷(ケガ)としては、半月板や、靭帯損傷、軟骨の損傷などでも滑膜に炎症を起こし、年齢層には幅があります。
また関節リウマチや痛風などの疾患でも滑膜の炎症が起こるとされています。
【膝の水を抜いても、繰り返し水が溜まる理由】
膝関節の中に水が溜まるのは、関節内の滑膜が刺激されることにより関節液の量が増え、密閉された関節内に関節液が溜まることが原因であることをお話してきました。
つまり、注射により関節内の関節液を抜いたとしても、滑膜が刺激される原因が改善しない限り、関節液は分泌され続けるというわけです。
そのため、膝関節の水を抜いてもまた水が溜まってしまうことから「膝の水を抜くとクセになる」という俗説になってしまったと思われます。
従って、水を抜くとクセになるから水が溜まるわけではなく、関節内の炎症が治まらないことから、また関節に水が溜まってしまうのです。
膝に水を溜めないためには、滑膜に炎症を起こす原因となる疾患を治療することがとても大切です。
【膝に水が溜まるとどんな症状になるの?】
膝関節は関節包という膜状の構造で包まれており、密閉されている構造となっています。
そのため、膝に関節液が溜まると、膝関節の内圧が上昇し、基本的には膝関節自体が腫れて(膨らんで)きます。
座った状態では、膝関節は約90度になるため、関節の内圧は膝の上方に抜けていきます。このことから膝のお皿(膝蓋骨)の上あたりで腫れや痛みを感じる方が多く診られます。
「膝が重くて違和感を感じる」
「膝の周りが突っ張る感じがする」
「膝の曲げ伸ばしがしにくい」
膝に水が溜まった患者さんからは、そのような声をよく伺います。
また、膝に水が溜まった状況を放置しておくことは、膝関節内の状態を悪化させる可能性があります。
関節包は膝関節強度の約40%を占めているとされており、関節の腫れが長く続き、関節包が伸びて緩むことで支持性が不安定となってしまいます。
また、水の中に含まれるサイトカインと呼ばれる周囲の組織に影響を与える物質が炎症と痛みを悪化させる可能性も示唆されています。
痛みや腫れは運動機能にも悪影響を及ぼすことも知られているため、膝に水が溜まった際には我慢せず、医師の診察によって必要なタイミングで水を抜き、原因となる疾患に対する早期の治療が大切です。
【溜まっていた膝の水の色で原因を判別!】
膝の水を抜く時には、注射針を刺す痛みを感じます。痛い思いをして水を抜くくらいなら、我慢したいという方も少なくありません。
実は、関節液の色や粘性を観察することで、関節の中で何が起こっているかをある程度予測することができるのです。ただ単に、溜まった水を抜いているだけではなかったのですね(笑)
通常、正常な関節液は粘り気のある黄色みの透明色をしています。
変形性膝関節症が原因の場合は、その黄色はやや濃くなり、その粘性も少なくなる傾向にあります。
また、骨折や半月板の損傷、靱帯損傷などの外傷(ケガ)では内出血をともなうため、水の色が赤色、もしくは褐色になってきます。
感染症や痛風を疑う場合は、白濁している色に注意します。
【まとめ】
膝に水が溜まった場合は、膝の炎症がおさまらない限り自然治癒しないことがほとんどです。膝の中に水が溜まりすぎると、関節内の内圧が上昇し、痛みを生じてきます。
膝関節に水が溜まったような症状を感じた時は、迷わず整形外科を受診し、必要に応じて水を抜くことが大切です。
水が抜けることで、膝の腫れや痛みなどの症状が緩和されやすくなり、同時に、関節液の色や画像検査を組み合わせ、関節の状態をみることが重要です。
そのうえで原因を把握し、治療を行うことが関節に水を溜めないための根本的な対処法と言えます。
立ち上がる際や歩く際の膝の痛みはもちろん、膝に関するお悩みは、いつでもあやせ駅前整形外科・内科にご相談ください。