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あなたの骨、健康ですか? -骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の基礎知識-
みなさんは「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」と聞くと、どんなイメージをお持ちでしょうか?
「骨が弱くなっちゃう病気だよね」
「高齢者に多い病気でしょ?」
「女性に多いって聞いたことあるけど?」
なかなか、はっきりと「骨粗鬆症」を説明できる方は少ないものです。
近年、骨粗鬆症に対する認識も深まり、整形外科で検査を希望される方も増えてきています。実際検査をしてみて、その結果に驚く方も少なくなく、あらためて骨粗鬆症の病気の怖さを認識する方も多くいらっしゃいます。
そこで今回から2回にわたり、この骨粗鬆症について、
どんな病気なの?
放っておくとどうなるの?
どんな検査をするとわかるの?
治療方法はあるの?
そんな疑問についてお話ししていこうと思います。
今回は第1回目として、骨粗鬆症の基礎について詳しくお話ししていきます。
【骨粗鬆症とはどんな病気?】
骨粗鬆症という病気の定義は、
「骨強度が低下し、骨折しやすくなる骨の病気」
とされています。
国内には約1,280万人の患者さんがいるといわれており、人口の高齢化に伴いその数は増加傾向にあります。
骨粗鬆症というと、よく「骨密度」という言葉を耳にしませんか?
この骨密度とは、その名の通り単位面積当たりの骨の密度の事を言います。
以前は骨粗鬆症と言うと、この骨密度が低下して骨折しやすくなる病気とされていましたが、これ以外にも骨折リスクには「骨質(こつしつ)」と呼ばれる要素が深く関与していることがわかってきました。
骨質は、骨の微細構造や骨代謝の程度など、骨そのものの質に関与する要素で決められます。このことから、骨強度は、骨密度と骨質が深く関与し、骨密度が70%、骨質が30%関係していると言われています。
つまり骨粗鬆症という病気は、骨密度の低下と骨質の劣化が影響することで骨折リスクが高まる病気ということができます。
骨密度が低下することで、骨の中身がスカスカになってしまうとともに、その質も低下してしまうことを考えると、いかにもろくなってしまうかが想像できます。
骨量は生後、徐々に上昇していき、20代をピークとして減少していきます。
そのため、20歳頃までにどれだけの骨を作るかが、その後の骨粗鬆症リスクに大きな影響を与えると言われています。
そのため、20歳代までに食事で必要な栄養素の摂取や適度な運動をしっかりと行うことが、人生後半の骨粗鬆症のリスクにもかかわってくるというわけです。
<豆知識>
ところでこの「骨粗鬆症」という漢字、とても読みにくくありませんか?
特に「鬆」という漢字は、よもや「しょう」と読むなんて、一苦労です。
ではこの「鬆」という漢字にはどんな意味があるのでしょうか?
この「鬆」という漢字は皆さんの身近なところでは「す」とも読みます。
ん?身近?
そんな読み方は、身近に使った覚えはないと思うかもしれませんが、結構使っています。
それは大根やゴボウが古くなると出てくるあの「す」のことです。
「鬆(す)」は、「松の葉の重なりから向こうがすけて見えるさま」が「鬆」の漢字の成り立ちとされています。
「骨が粗く向こうが透けて見えるぐらいスカスカになってしまう症状」
それが骨粗鬆症ということです。
【骨はどんな成分でできているの?】
皆さんは「骨」はどんな成分でできていると思いますか?
きっとほとんどの方が「カルシウム」を連想することと思います。
実は、骨の体積の50%は、コラーゲンを主体とした有機成分でできています。
残りの約50%はカルシウムとリンを主体とした無機成分などでできています。
この有機成分と無機成分が共存することで、骨は硬さとしなやかさを両立することができています。
この関係はよく「鉄筋コンクリート」に例えられ、カルシウムはコンクリート、コラーゲンはコンクリートを中で支えている鉄筋として考えます。
そして鉄筋(コラーゲン)は鉄筋同士をつなぎとめるコラーゲン架橋と呼ばれる構造で支えられ、その鉄筋の強さに関係します。このコラーゲン架橋は建物の梁(はり)の役目を果たしており、建物全体の強さに影響していきます。
さらに、このコラーゲン架橋には「善玉」と「悪玉」が存在しており、悪玉架橋が増加すると、そのつなぎ止めが弱くなることでしなやかさが失われ、硬くてもろく、壊れやすい状態になります。
悪玉架橋は加齢や生活習慣病によっても増えてしまうことが知られています。
【骨は新陳代謝している?】
実はいつも同じように見えている骨でも新陳代謝をしています。
骨が新たに作られることを骨形成(こつけいせい)と呼び、「骨芽(こつが)細胞」がこの役割を担います。
そして骨が溶かされて壊されることを骨吸収(こつきゅうしゅう)と呼び、「破骨(はこつ)細胞」がこれを行います。
骨の新陳代謝はこれが繰り返されており、骨粗鬆症は、このバランスが崩れることで起こります。
全身の骨は約4ヶ月から半年ですべて入れ替わるとされています。
【骨粗鬆症になってしまう原因は何?】
骨粗鬆症になってしまう原因は、女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏や加齢、運動不足などの生活習慣、特定の病気の影響などが挙げられますが、その原因を大きく分けると以下の2つに分類されます。
①原発性(げんぱつせい)骨粗鬆症
原因となる明らかな疾患などがなく、主に加齢や女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏、乱れた生活習慣、遺伝が原因とされます。
骨粗鬆症全体の約90%を占めるとされ、特に、原発性骨粗鬆症の患者さんのうち、およそ8割は女性と言われています。
閉経後骨粗鬆症と高齢者(65歳以上)にみられる老人性骨粗鬆症の割合が高く、他にも偏食や無理なダイエット、遺伝的要因も挙げられます。
健康な骨の維持には骨自体の適切な代謝のバランスが必要となります。
加齢に伴い、ビタミンDや副甲状腺ホルモンのはたらきに変化が生じることで、骨代謝のバランスが崩れるとされています。
特に女性の場合は、閉経や加齢により、骨の吸収(分解)の抑制作用を持つエストロゲンというホルモンが低下した結果、骨の形成と吸収(分解)のバランスが崩れることで、骨の強度が低下してしまいます。
他にも、過剰なダイエットや偏食など、カルシウムやタンパク質、ビタミンD、ビタミンKなどが不足することで、骨量が減りやすくなるとされています。
②続発性(ぞくはつせい)骨粗鬆症
特定の病気や薬の影響など、二次的な原因によって起こります。
・甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症)
・胃切除や吸収不良症候群など栄養に関連した疾患
・ステロイドなどの薬の長期服用
・糖尿病などの生活習慣病
・関節リウマチや多発性骨髄腫といった骨の病気
・腎不全による透析
などなど、さまざまな病気の影響があります。
前述の通り、骨の強度は骨密度と骨質によって決まります。
実は糖尿病の患者さんでは、同じ骨密度であっても骨折のリスクが高くなることが知られています。これは骨質の変化が発症に関係することを示しています。
女性に多い病気である一方、男性が発症した場合には生活習慣病が原因となっている場合も多く、症状が重篤になることもあるようです。
【どうして女性に骨粗鬆症が多いの?】
骨粗鬆症は高い割合で女性、特に閉経後の女性に多くみられることから、女性ホルモンの減少や老化と関係が深いと考えられています。
女性は一般的に更年期の年代に閉経を迎えることが多く、その影響として女性ホルモンであるエストロゲンが減少していきます。
このホルモンには、骨の新陳代謝の際、骨吸収(分解)のスピードを緩める成分が含まれており、これが減少すると骨吸収(分解)が加速してしまいます。
その結果、骨形成が追い付かなくなり、骨の密度が低下することで骨の強度が低下してしまい、骨粗鬆症を発症してしまいます。
他にも、治療により生理を止めている方や若年期に生理不順のあった方も骨粗鬆症を発症しやすいと言われています。
【男性は骨粗鬆症にならないの?】
骨粗鬆症は女性ホルモンの影響を受けやすいというお話をしましたが、その他にも骨粗鬆症発症のリスクを挙げる要素はいくつかあります。
・喫煙、アルコール摂取の常習、過度のアルコールを摂取されている方
・甲状腺機能亢進症と診断された方
・高血圧・脂質異常症がある方
・がんの治療などでホルモン剤などの投与療法を受けている方
・運動不足による筋力、体力の低下が顕著な方
これらはどれも女性に限って起こることではなく、実は男性も60歳を過ぎたら骨粗鬆症のリスクが高まってくるとされています。
むしろ男性が骨粗鬆症になり転倒すると、女性よりも大きな障害を受けやすいというデータもあります。
冒頭、国内の骨粗鬆症患者さんの推計は約1,280万人とお伝えしましたが、その内訳は、女性が980万人、男性が300万人程度となっています。
女性の割合が多いことは確かですが、4分の1は男性ですから、決して少ない数字ではありません。
男性でも70歳を過ぎると、女性の発症数の約半分程度の割合で骨粗鬆症を発症していると言われます。さらに80歳頃を過ぎると骨量が若い頃の70%程度まで低下し、男性でも骨粗鬆症を発症しやすくなるとされています。
また糖尿病や高血圧などの生活習慣病、骨の健康に影響する喫煙や飲酒をする割合は、女性よりも男性の方が高い傾向があることから、十分な注意が必要といえます。
一方で、年齢を重ねるにつれ、男性・女性に関わらず筋力の低下やバランス能力が低下していくことから、転倒のリスクが増えていきます。
実は転倒後、ケガが治った後でも、再び転倒することを恐れて自宅に引きこもりがちになってしまうのは、男性の方が割合が高いというデータもあります。
その結果さらに筋力・持久力ともに低下してしまい、骨の強度の低下にとどまらず、心肺機能などの体全体の機能の衰えにもつながっていきます。
このことからも、男性の場合、70歳を過ぎると骨折のリスクが高まるため、油断せずに注意が必要と言えます。
【次回予告!!】
ここまでは、骨粗鬆症がどんな病気なのかを詳しくお話してきました。
次回は、骨粗鬆症に早く気付くための症状の理解から、検査、治療、そして予防まで、詳しくお伝えして行きたいと思います。
骨粗鬆症についてのご不安、ご心配などあれば、いつでもお気軽に、あやせ駅前整形外科・内科までご相談ください。