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物損事故についての疑問あれこれ -その事故、人身事故ではありませんか?-
今日もあやせ駅前整形外科・内科では、交通事故によるケガの治療やお悩みのご相談など、多くの患者さんが来院されています。
交通事故によるケガは人身事故として取り扱われ、自賠責保険により治療費などの補償を受けられます。
ところでこの「人身事故」という言葉と合わせて、「物損事故」という言葉を耳にすることはありませんか?
今回はこの「物損事故」について、意外と知らないあれこれを掘り下げていこうと思います。
【物損事故と人身事故の違い】
交通事故は法律や保険の観点において、大きく2つの事故に分けることができます。
それが「物損事故」と「人身事故」の2つです。
簡単に分けると物損事故はモノが壊れた事故、人身事故は人がケガをした事故ということになります。
もう少し掘り下げると、物損事故はモノは壊れたが人はケガをしなかった事故であり、人がケガをした時点ですべて人身事故ということです。
この「ケガ」という表現は、「傷を負った」「骨を折った」などの外傷に限らず、交通事故をきっかけにして出現した様々な痛みを含みます。(もちろんこの痛みと交通事故の因果関係は医療機関で証明される必要があります)
それを踏まえて人のケガがなければ物損事故ということになってきます。
交通事故においては、大なり小なり、モノが損傷します。車の軽いこすれや凹みから大破まで、また、電柱やガード柵などの損傷などもあることでしょう。
いずれにせよ、それらに人のケガが絡まなければ「物損事故」ということになります。
【もし物損事故を起こしたら?】
交通事故を起こした場合は必ず警察に届け出る義務があります。
軽くぶつけただけだからとその場の示談交渉で済ましたり、相手がいないからと立ち去ったりすると、道路交通法違反となり、3カ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科せられることになります。
自己判断せず、必ず警察に届けましょう。
【物損事故の損害は誰が補償するの?】
冒頭、交通事故によるケガは人身事故として取り扱われ、自賠責保険によりその治療費などの補償を受けることができるとお話ししましたが、物損事故については自賠責保険では補償されません。自賠責保険はあくまで相手のケガを補償する制度のため、物的な損害は補償されないのです。
そのため、物的な損害賠償の請求は、直接加害者側に請求することとなります。
ただし、加害者が任意保険に加入している場合は、その補償を加害者の保険会社に請求することができます。
ここで一つ知っておかなくてはならないのが、お互いが車両を運転していた場合、過失割合によってはお互いが被害者であり加害者になりうるということです。
このことから、物損事故においてもその程度に関わらず、お互いの情報を交換し、補償を受ける環境を作っておく必要があります。
具体的には、お互いの免許証や、車検証、自賠責保険証、任意保険証などを確認しつつ、以下の情報を整理しておきます。
①加害者の氏名
②住所
③車両のナンバー
④車両の所有者
⑤自賠責保険および任意保険の会社名や連絡先
【物損事故では刑事処分は適応されない?】
基本的に物損事故そのものについては行政処分や刑事処分は適応されず、人身事故では行政処分や刑事処分の対象となります。
これが理由で、加害者から「物損事故扱いにしてほしい」などと示談を持ちかけられるケースも多くあるようです。
ただし、建造物そのものを破壊してしまった場合には建造物損壊事故として行政処分の対象となることがあるほか、物損事故の原因となった違反行為に対して基礎点数のみが付されることがあるようです。
【物損事故と人身事故の警察対応の違い】
物損事故と人身事故とでは、行政処分や刑事処分があるか否かに違いがあります。
人身事故は行政処分や刑事処分の対象となるため、警察では記録として実況見分調書や供述調書が作成されます。交通事故の客観的な詳細が記録されるため、過失割合などがわかりやすくなります。
逆に物損事故ではこのような記録は作成されず、ドライブレコーダーや事故当時の周囲の証言、事故現場の写真などから、その状況を把握していくこととなります。
人身事故の扱いとなるためには交通事故とケガの因果関係を証明するための診断書が必須となります。
交通事故から2週間以内であれば、その後に出現した痛みについても因果関係を認められることが多いようです。後から出た症状も自己判断せず、医療機関を受診して相談することで診断書を作成してもらえる場合もあります。
【物損事故から人身事故へ切り替えられる?】
軽い事故のため、その場では痛みやケガがなかったことから、物損事故としてしまったものの、何日かしてから首や腰に痛みや違和感を生じることがあります。
当院でもこのようなケースは多く見られ、むち打ち症のことがほとんどです。ただし、前述の通り、交通事故から日数が経過しすぎてしまうと、その因果関係が薄れてしまい、証明できない場合もあります。
交通事故の後に痛みや違和感を感じたら迷わず医療機関を受診し、その因果関係についても相談してみましょう。
その結果、診断書が作成されればこの診断書を症状とともに警察に届け出ることにより人身事故に切り替えることが可能です。
これにより、警察では捜査義務が発生することとなりますので、事故現場での実況見分などが行われることになります。
ただし警察としても、期間が空きすぎてしまうと実況見分にも限界があるため、人身事故として処理できないケースもあるようです。
【警察では物損事故扱いなのに、保険会社が治療費を支払ってくれる?】
自賠責保険はあくまで被害者のケガを補償するものであり、物的な損害に関しては補償されません。
しかし患者さんは「警察では物損事故扱いです」とお話しされるのですが、保険会社が自賠責保険に治療費を請求しているケースが見受けられます。
ケガをしているのに物損事故?
物損事故なのに自賠責保険に請求している?
なんだか訳がわからなくなりそうですが、実はこの現象、2つの側面から構成されています。
①治療費などは任意保険会社が自賠責保険に請求している
実は医療機関で発生した治療費は、一度患者さんが立て替えて、後から自分で自賠責保険に請求するのが原則となっています(被害者請求と言います)。
しかし加害者が自賠責保険だけではなく、任意保険会社にも加入していると、その任意保険会社が被害者に代わって自賠責保険に請求し、その額が医療機関に支払われる仕組みとなっており、任意保険会社のサービスの一環となっています(一括請求と呼んでいます)。
これにより被害者は自ら被害者請求する必要もなく、任意保険会社も補償金を自賠責保険に請求することで、任意保険会社の持ち出しを少なくできる構造になっています。
②後から生じた症状に診断書が作成されれば、任意保険会社から自賠責保険に申請できる
事故当時は症状もなく、物損事故として処理してもらったものの、後から症状が出た場合、物損事故から人身事故に切り替えることができます。しかし期間が空きすぎてしまったり、何らかの理由で警察に対応してもらえなかった場合、人身事故に切り替えられないケースもあります。
このようなケースを含め、「人身事故証明書入手不能理由書」というものを自賠責保険に申告することで、人身事故として取り扱ってもらいその補償を受けることができるとされています。つまり、任意保険会社は警察を介することなく、診断書と人身事故証明書入手不能理由書があれば自賠責保険に請求することが可能になります。
このことから、警察では物損事故扱いになっているにもかかわらず、自賠責保険の補償を受けることができる現象が起きるようです。
しかしながら、このねじれた現象は、適切な補償を受けられないなどのトラブルの元となることもあるようです。このようなケースがあることから、患者さんと保険会社との間で十分に協議する必要があるように感じます。
【まとめ】
いかがでしたか?物損事故と人身事故の取り扱いの違いはお分かりいただけましたでしょうか?
物損事故と人身事故ではその補償内容に大きな違いがあるほか、警察や保険会社の対応にも違いが出てきます。
物損事故として取り扱われた場合、加害者から支払われる賠償金が適切に支払われなくなるなどのトラブルが散見されます。
一方、人身事故では一般的に賠償金は適切に支払われるケースが多く、補償範囲も広くなっている印象です。
医療機関は、それを物損事故として取り扱うのか、人身事故として取り扱うのかを決めることはできませんが、私たちはケガをされた患者さんの日常生活や心身の苦しみが適切に補償されることを心より望んでいます。
交通事故に関するお悩みやお困りごとなどございましたら、いつでも気軽にご連絡ください。皆様からのご相談に対してしっかりとお答えいたします。