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交通事故における「慰謝料」とは?-知っているようで知らない慰謝料のこと-
交通事故における「慰謝料」とは? -知っているようで知らない慰謝料のこと-
今日もあやせ駅前整形外科・内科では、予期せぬ交通事故に見舞われた患者さんが来院され、多くのお悩みを相談されていきます。
あやせ駅前整形外科・内科は、綾瀬駅西口すぐにあり、足立区にありながら葛飾区にも隣接しているため、区をまたいで多くの患者さんが来院されます。
そんな交通事故に見舞われた患者さんのお悩みの中でも、【慰謝料】についてのお悩みは、相談しにくいお悩みの一つです。
みなさんは【慰謝料】と聞いて、どんなことを想像しますか?
おそらくほとんどの方は、あまりいいイメージはないかと思います。
だから何となく、周りの人に慰謝料を相談するのも気が引けてしまいますよね。ところがこの【慰謝料】交通事故においては、大変重要な意味を持ちます。
慰謝料のことを知っているのと知らないのとでは、その後の補償のあり方に大きな影響があるのです。
今回は、この【慰謝料】について、知っているようで知らない側面を掘り下げていこうと思います。
【交通事故における【慰謝料】の特徴】
予期せぬ交通事故に見舞われた際、その衝撃からむち打ちなど、身体に及ぼす影響もさることながら、やはりその時に感じた恐怖や、その後に引きずってしまう不安など、精神的な苦痛を感じる方は大変多くいらっしゃいます。
【慰謝料】とは、この精神的な苦痛に対して補償される賠償金のことを指します。
しかしこの【慰謝料】、交通事故の種類によって、その補償の対象が限られていることはご存じでしょうか?
交通事故で人がケガなどを被った場合、その取扱いは「人身事故」となり、その補償として【慰謝料】が支払われるのが一般的です。
それに対して、交通事故で誰もケガがなく、車や壁などの物が壊れてしまった事故を「物損事故」と言います。
実はこの物損事故の場合、【慰謝料】が支払われないのが一般的なのです。
これは、物が壊れたことによる精神的苦痛は、物が賠償されればその苦痛が慰謝されるという考え方があるからです。
では、むち打ちや骨折などの「人身事故」を被った際、具体的にどのように慰謝料が発生するのでしょうか?
【慰謝料の3つの種類】
交通事故による損害は【慰謝料】だけではありません。
治療費や通院交通費、休業損害、本来得られたはずの利益(逸失利益)など、様々な損害があります。
慰謝料はこれらとは別に精神的損害として取り扱われるため「損害賠償金」として請求されることとなります。
では、具体的に交通事故で発生する慰謝料にはどのようなものがあるのでしょうか?
一般的には以下の3種類と言われています。
①入通院慰謝料
②後遺障害慰謝料
③死亡慰謝料
それでは、それぞれを解説していきましょう。
①入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故でケガをした際に認められる慰謝料です。
その名の通り、入院や通院治療を受けた期間の長さによって支払われます。入通院慰謝料は、後遺障害にかかわらず支払ってもらえますが、当然、入院や通院がなければ支払われることはありません。
また重症度も考慮されるため、入通院の期間が長く、通院期間よりも入院期間が長い方が高額になります。
②後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故後、治療を受けても完治できず後遺症が残り、これについて「後遺障害認定」を受けた場合の身体や精神の障害に対して支払われる慰謝料です。
後遺障害が残ると、多大な精神的苦痛を受けることから、入通院慰謝料とは別に、その後遺症の重さに応じて支払われます。
③死亡慰謝料
死亡慰謝料は、交通事故により被害者が亡くなった際に支払われる慰謝料です。被害者の収入によって生計が成り立っていた場合、その割合が大きいほど高額になるケースが多いと言われています。
これらの慰謝料は、基本的には基準となる金額がそれぞれ設定されています。しかしケースによっては、この金額が増減する場合があるのです。
人によって慰謝料に増減があるの?不公平では?と疑問を抱きたくなる方もおられるかもしれません。
では、そのケースというのはどのようなものなのでしょうか?
【慰謝料の金額が増減するケースとは?】
慰謝料の特徴として、「精神的苦痛に対する賠償」であることはお話ししてきたとおりです。しかし、精神的苦痛は具体的に目に見えるものではなく、その苦痛にも、ケースによって強弱があるものです。そのため、その強弱に応じて慰謝料も変化するケースもあるということです。
ケースの一つとして、既にほかの方法で慰謝されている場合(他に金銭として慰謝されている場合)や被害者自身にも過失割合が相当数生じた場合なども、増減の対象となります。
では、具体的にどのような場合に増減するのでしょうか?
裁判の判例などをもとに、慰謝料が増加する場合と減少する場合に分けてお話ししていきましょう。
○慰謝料が増加するケース
①事故態様が悪質な場合
・加害者による故意な危険運転行為(薬物服用や赤信号無視などの危険行為)
・重大な過失(飲酒、無免許、信号無視、著しい速度違反、あおり運転など)
②加害者が著しく不誠実な態度であった場合
・加害者によるひき逃げ
・事故の状況について故意に虚偽の主張をした場合
・証拠隠滅を図った場合
・被害者に責任転嫁をし、責任逃れが明白な場合
・被害者を侮辱した場合
③事故が原因で離婚、結婚が破談になった場合
④事故が原因で失職した場合
⑤事故が原因で就職、入学、留学できなくなった場合
⑥被害者が流産、中絶した場合
⑦治療が過酷、苦痛を伴う場合
○慰謝料が減少するケース
①過失相殺される場合
被害者にも過失割合がある場合、事故態様ごとに過失割合を示した過失相殺率基準に応じて、慰謝料やその他の賠償金が減額されます。
②「素因減額」を考慮された場合
減額の考え方として「素因減額」というものがあります。
素因減額とは、被害者がもともと持っている身体的要素(素因)や心因的要素(素因)が、その損害に寄与している場合に考慮され、減額される考え方です。
身体的素因が考慮されるケースとしては、損害を受ける以前からあった症状がもとで、治療に時間を要した場合や感知しなかった場合に考慮されます。
また心因的素因が考慮されるケースとしては、事故前からうつ病があり、積極的に治療を受けなかったために治療期間が長引いた場合などです。
③損益相殺される場合
交通事故を原因として、被害者が利益を得た場合、その分の金額が慰謝料から差し引かれ、これを損益相殺といいます。
交通事故で利益を得るとはどういうことでしょうか?
実は、以下のような受取金を得た場合、損益相殺の対象となります。
・加害者からの弁済金
・自賠責保険から受け取った保険金
・政府保障事業によって支払われたてん補金
・労災保険金
・厚生年金や健康保険などからの給付金
・人身傷害補償保険の保険金
ここまでは、慰謝料の性質についてお話してきました。
一方で、私たちが医療現場で経験している現状として、一般論と違う対応に迫られるケースがあります。
その中でもよく遭遇するのが、物損事故扱いにもかかわらず、自賠責保険が適応となっているケースです。
これはどういうことなのでしょうか?
◆物損事故の取り扱いのままでも、自賠責保険が使える?◆
冒頭でお話しした通り、物が壊れたことによる精神的苦痛は、物が賠償されればその苦痛が慰謝されるという考え方があります。
これに従い、物損事故の扱いでは、一般的に精神的苦痛を補償する慰謝料は発生しないのが普通です。そもそも、自賠責保険自体が、被害者のけがを補償する制度のため、物損事故自体が補償外となっているのです。
ところが、交通事故治療の現場では、物損事故のままの扱いで自賠責保険が適応となっているケースが散見されるのが現状です。
前述のとおり、自賠責保険は、被害者の心身を補償するための仕組みであり、その物損事故により発生した損害は補償されないのが原則です。
では、その事故が物損事故か人身事故かを判断するのは誰なのでしょうか?
これを判断するのは「警察」ということになります。
交通事故発生の際、被害者に目立ったケガがなく、痛みなどを訴えなければ、基本的には物損事故として、警察により処理されるのが一般的です。
逆に、その場で明らかな外傷などがあった場合や、医師の診断書の提出があって、初めて人身事故として処理されるのです。
自賠責保険では、事故証明書が人身事故扱いになっている場合に、その補償が認められます。原則として、物損扱いの事故証明書ではその補償を受けることはできません。
ただし例外として、物損事故の扱いのままでも「人身事故証明書入手不能理由書」という書類を添付すれば、自賠責保険の補償を受けられるケースもあるのです。
??一般的に「人身事故証明書入手不能理由書」を発行するケースとは??
「人身事故証明書入手不能理由書」を入手しなくてはならない状況とはどのような時なのでしょうか?
そもそもこの書類は、交通事故証明書が人身事故扱いになっていない場合、必要な理由に応じて人身事故の扱いとして届け出るための書類です。
必要な理由の代表的なものとして、
★駐車場など、私有地での事故で、交通事故証明書が発行されなかった
★診断書は取得していたが、提出が遅れたため、警察署で受け取ってもらえなかった
★自己当初は痛みがなかったため、診断書を取得しなかった
等が挙げられます。
いずれのケースにしても、診断書がなくても、そのケースが認められれば自賠責保険による補償を受けることができるとされています。
しかしこの制度、裏を返せば診断書がなくても(物損事故の扱いでも)、人身事故として取り扱うことができるということになります。
また、どのケースにせよ、診断書を作成するまでに期間が空いていることから、「軽傷」と判断されやすく、保険会社からも治療期間の短縮などを通告されやすくなるとされています。
結局のところ、警察で物損事故扱いになっていても、所定の書類を提出すれば、自賠責保険による補償を受けることができるわけです。
ただし前述のとおり、慰謝料を含め十分な補償を受けることができないリスクもあるため、その取扱いには十分注意が必要です。
交通事故とケガとの因果関係を証明するには、事故から2週間以内に、その診断書を得ることが重要であるとされています。
そのうえで、人身事故の手続きを取り精神的苦痛を含め、しっかりとした補償を得られる環境を整えることが大切です。
慰謝料は精神的な損害を補償する者ですが、怖い思いやトラウマなど、金銭的な補償を得たからと言って、全てをなかったことにはできません。
慰謝料はあくまで、目に見えない精神的苦痛を数字として具現化し、それを補償として請求する仕組みです。
精神的苦痛は目に見えるものではありません。
そのため、被害者が感じている苦痛を金額に換算しても、実際に提示された金額を見て、その差に驚く人も少なくないようです。
慰謝料の仕組みを理解することで、少しでもその差を埋め、精神的に受けた傷の治癒に繋げられたらと思います。
あやせ駅前整形外科・内科では交通事故治療に力を入れております。この他にも、ホームページ内の医療情報から、過去の記事を閲覧できますので、ぜひご覧ください。