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自転車事故の損害賠償は自動車事故と同じ!?
自転車事故の損害賠償は自動車事故と同じ!?
当院では交通事故に関するアンケートを実施しておりますが、今回はその中でも質問の多かった「自転車事故」についてお話ししたいと思います。
ご存じの方も多いとは思いますが、道路交通法上、自転車は「軽車両」に該当します。
しかし自動車とは違い、免許取得の必要がなく、誰でも簡単に乗ることができるのが特徴です。
最近ではコロナ禍の健康維持のためのツーリングや通勤、料理の配送サービスの需要が高まり、自転車人口は増加傾向にあります。
皆さんの中にも、自転車に乗られる方が多くいらっしゃると思います。そして一度は「いやー、危なかった」という経験がある方がほとんどではないでしょうか?
自転車に乗らない方でも「歩いていて、自転車とぶつかりそうになった」という経験がある方も多いのではないでしょうか?
そう考えると、自転車事故のリスクは、自動車事故のリスクよりも高いとも言えます。
ただ何かあったとしても軽傷で済むことが多く、その場で済ませてしまうことがほとんどのようです。
それゆえに、損害賠償や刑事責任に問われるケースが少ないため、自転車事故に対する意識が薄くなってしまうのが現状です。
その一方で、大きな自転車事故になってしまった際、自動車事故とは違った対応が求められ、トラブルに発展するケースも少なくないようです。
【過去の自転車交通事故の事例】
<ケース1>
神戸地方裁判所 2013年7月4日判決 賠償額9,521万円
小学生が夜間、自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の被害者と正面衝突。被害者は頭蓋骨骨折等の障害を負い、意識が戻らない状態となった。
<ケース2>
東京地方裁判所 2008年6月5日判決 賠償額9,266万円
高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた会社員と衝突。被害者に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った。
<ケース3>
東京地方裁判所 2003年9月30日判決 賠償額6,779万円
加害者が夕方、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とさず走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の被害者と衝突。脳挫傷等で3日後に死亡した。
このように、自転車事故は軽傷で済むケースもありますが、自動車事故と同様に、命や人生にかかわる重大なトラブルに発展してしまうこともあるのです。
そして私たちは自転車交通を取り巻く環境の中で、「被害者」にも「加害者」にもなりうる可能性があるわけです。
ここからは、自転車事故における「被害者」と「加害者」に分けて、その立場や対応についてお話していきたいと思います。
【ルール違反をするとどんな責任が問われる?】
自転車事故で加害者になった場合、どのような責任を負う可能性があるのでしょうか?
大きく分けると、以下の3つになります。
1 刑事上の責任
・過失傷害罪
・過失致死罪
・重過失致死傷罪
・その他 罰金刑、懲役刑
2 民事上の責任
・被害者に対する損害賠償に伴う慰謝料
3 行政上の責任
・危険性帯有者の指定
免許制度のない自転車では、点数制度による行政処分の対象となるものがありません。このため、道交法103条の規定により、車などを運転することで、道路上での交通に著しい危険を生じさせる恐れがある状態にある者を「危険性帯有者」として認定することができます。
・自転車指導警告カード
自転車の運転中に「危険行為」を犯してしまうと警察官から「警告票」をわたされます。カードには該当する危険行為、裏面には交通ルールが記載されています。
・自転車運転講習の受講
2015年6月より、危険行為を繰り返した自転車の運転者に対し、自転車運転講習の受講が命じられ、2020年6月よりその違反行為に妨害運転が追加されました。
自転車運転者が、違反行為もしくは事故を3年以内に2回以上繰り返した場合、都道府県の公安委員会より自転車運転者講習を受講するよう命じられます。
受講命令に従わなかった場合、5万円以下の罰金が課されます。
【違反となる対象は?】
地域によって差があるようですが、原則として以下の15項目の違反に該当すると、自転車指導警告カードが適応され、注意を受けます。また、悪質なものについては「赤切符」が適応されるケースもあるようです。
- 信号無視
- 通行禁止違反(通行止め、進入禁止区域での通行)
- 歩道用道路における車両の義務徐行違反
- 通行区分違反(左側通行)
- 路側帯通行時の歩行者の通行妨害
- 遮断踏切への立ち入り
- 交差点での安全進行義務違反
- 交差点での優先車妨害
- 環状交差点での安全進行(右回りに対する違反など)
- 指定場所一時不停止など(踏切など含む)
- 歩道通行時の通行方法違反(歩行者優先など)
- ブレーキ不良自転車運転
- 酒酔い運転
- 安全運転義務違反(傘さし運転、スマホ、イヤホン、2人乗り、片手運転、並走運転、無灯火など)
- 妨害運転(交通の危険のおそれ、著しい交通の危険)
【走行は車道が原則、歩道は例外】
幅が3m以上ある歩道で、「自転車通行可」の道路標識または「普通自転車通行指定部分」の道路標示がある歩道は、自転車の走行は可能です。ただし、歩行者優先のため自転車は徐行が原則です。
車道と歩道の区別のあるところは、車道を走行するのが原則ですが、道路標識ややむを得ない場合、13歳未満の児童・幼児、70歳以上の高齢者、身体の不自由な方は歩道を走行できます。
【自転車の交通違反で赤切符を切られる?】
自転車は、道路交通法上「軽車両」と規定されているため、違反を犯せば自動車やバイクなどと同じように、道路交通法が適用されます。
自動車での違反の場合、「青切符」と「赤切符」のどちらかが適応されます。
「青切符」は、以下の特例により反則金の支払いで刑事処分を免れることができます。
<法令一部抜粋>
第9章 反則行為に関する処理手続の特例
(通則)
第125条 この章において「反則行為」とは、前章の罪にあたる行為のうち別表の上欄に掲げるものであつて、車両等(軽車両を除く。次項において同じ。)の運転者がしたものをいい、その種別は、政令で定める。
一方「赤切符」は、即「罰金・前科」となり刑事罰という厳しい処分に至る場合があります。
この「青切符」の特例は、記載の通り「軽車両」には適応されません。つまり、自転車での交通違反では、「赤切符」の方が適応される場合があるということです。
軽微な違反では警告カードが適応されますが、警察官から、「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」危険性帯有者(道路交通法第103条8号)と見なされると、「赤切符」を切られてしまうことが多いようです。
違反をした人が「車両」の運転免許を持っていても点数はひかれません。
【自転車事故の慰謝料は自動車事故と同じ?】
それでは、自転車事故の被害者となってしまった場合、どのような補償を受けることができるのでしょうか?
請求できる慰謝料は、自動車事故と同じで3種類あります。
- 人身事故に対する補償
- 治療費
- 入院費
- 通院交通費
- 慰謝料
- 休業損害
- 後遺障害逸失利益および後遺障害慰謝料(後遺障害が残った場合)
- 死亡慰謝料
- 物損に対する補償
- 修理費用
- 買替差額費
- 代車費用
- 休車損害
- 評価損
【被害者を救済するための「自賠責保険」は自転車にはない?】
なんと自転車には、被害者のケガを保証するための「自賠責保険制度」はありません!
そのため、事故の際に自賠責保険を使えないことから、その保証は全て加害者負担となります。
最悪のケースでは、損害賠償金が多額の場合、加害者に支払い能力がないこともあるのです。
そのため、自転車の運転者に任意保険の加入を勧める働きもありますが、まだ地域差などもあり、十分とは言えないのが現状です。
【みなさん、自転車保険には加入できていますか?】
自転車保険に・加入していないことで罰則があるわけではありません。そのため、未加入でいる方も多いと思います。
自転車保険の加入は、お住まいの自治体によっても「加入義務」と「努力義務」と、働きかけに違いがあります。
当院の周りでは…
<加入義務>
東京都(令和2年4月より)
埼玉県(平成30年4月1日より)
神奈川県(令和1年10月1日より)
<努力義務>千葉県 となっているようです。
自転車保険の加入率でみてみると、2021年3月時点では、
全国平均59.5%
埼玉県:68.8%(全国5位)
神奈川県:63.7%(全国9位)
東京都:62.7%(全国11位)
千葉県:54.8%(全国19位)
やはり加入義務の自治体の方が、全国平均を上回る傾向があるようです。
【自転車事故における示談交渉の特徴】
自転車保険の加入率は上昇傾向にありますが、それでも十分とは言えません。そのため、自動車事故のように任意保険会社の担当者同士が交渉を行うことは少なく、自転車事故の示談交渉は難航することが多いようです。また、自転車運転者が被害者か加害者かによっても、特徴があるようです。
<自転車運転者が被害者だった場合の特徴>
★過失割合の参考となる判例が少なく問題となりやすい
通常、過失割合は過去の判例を基に作られた事故類別型の基本過失割合に、個別の事故状況を反映させ決められることがほとんどです。自転車事故はその判例数自体が少ないことから、ベースのない状況で話し合う必要があり、争いになることが多いようです。
★相手が自動車の場合、被害者自身が任意保険会社の担当者と交渉しなければならない
自転車(被害者) VS 自動車(加害者)の場合、被害者として自動車側に損害賠償を請求する事となります。
自動車の運転者は自賠責保険のほかに任意保険に加入していることが多く、実際には任意保険会社の担当者と交渉を行い、損害賠償を請求することになります。
しかし相手は示談交渉のプロです。保険会社としても、不要な補償は抑えたいベクトルもあるため、結果として不利な状況で交渉しなければならなくなります。
このことから、自転車が絡む交通事故の場合、「過失割合をめぐるトラブル」が非常に多くなる傾向があるようです。
<自転車運転者が加害者だった場合の特徴>
★想像以上の過失割合を主張される
自転車を軽車両と認識している方が少ないため、自転車運転に対する交通ルールの規範意識が低いことから、被害者から想像よりも高い過失割合を主張されることも多いようです。
★自転車事故では後遺障害の認定機関が存在しない
自動車の場合、必ず自賠責保険に加入しているため、損害保険料率算出機構という専門機関が後遺障害の有無や等級を認定します。
一方、加害者側が自転車の場合は、後遺障害を認定する専門機関が存在しないため、被害者自身が診療記録や多くの資料をもとに、後遺障害の有無や障害の程度を主張しなければなりません。
【まとめ】
- 自転車事故は軽傷で済むケースもあるが、自動車事故同様、命や人生にかかわる重大なトラブルに発展することもある!
- 交通ルール違反には自転車指導警告カードが適応される他、悪質なものについては「赤切符」が適応されるケースもある!
- 自転車事故でも他の交通事故と同様に損害賠償が行われる
- 自転車事故の際に自賠責保険を使えないことから、その保証は全て加害者負担となる!
- 自転車事故は判例が少ないため、過失割合が争点となりやすい!
- 相手が自動車の場合、被害者自身が任意保険会社の担当者と交渉しなければならない!
- 加害者側が自転車の場合、自転車保険に未加入のケースが多く、当事者同士で示談交渉をしなければならないことがある!
- 加害者が自転車の場合、後遺障害を認定する専門機関がないので後遺障害について争点となりやすい!
自転車運転者が自転車保険に加入することで、被害者となった場合でも、加害者となった場合でも、自賠責保険と同様の補償を得ることができます。
すぐ身近にあるリスクとして、日ごろから対策を打っておくことが大切ですね!
当院では交通事故治療に力を入れております。お困りごとなどあればいつでもご相談ください!
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