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体の痛みは心と関係がある?-第1話 痛みとは何か?-
あやせ駅前整形外科・内科を受診される患者さんは、交通事故によるむち打ちなどのケガやスポーツによるケガをはじめ、日々感じる膝や腰の痛み、肩の痛みなど、様々な痛みの悩みを抱えて来院されます。
普段、私たちが感じている「痛み」には様々な種類の「痛み」があります。鋭い痛みや鈍い痛み、すぐに治ってしまうものや長期化してしまうもの。
そもそも「痛み」とは何なのでしょうか?
私たちを悩ませる「痛み」について、その複雑なメカニズムをシリーズを通してお話ししていきたいと思います。今回はその中でも、「痛み」についての大まかな概要を解説していきます。
【国際的な「痛み」の定義】
そもそも痛みとはどのように定義されているのでしょうか?
医療関係者の中では話題になりましたが、2020年7月16日に国際疼痛学会より41年ぶりに「痛みの定義」が改訂となりました。
改訂されたものがこちらになります。
「組織損傷が実際に起こった時あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験、あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験」
医療用語ばかりで、なんだか難しいですね。
つまり、ケガをした時、又はしそうなときに感じる嫌な感覚や嫌な感情、あるいは、それに似た感覚や感情ということになります。
これでも回りくどくてわかりにくいですね。
たとえば、椅子の角に足の小指をぶつけて、その時にすごく痛かった経験はありませんか?
気が付くと痛みはなくなり、普通に過ごしていたけど、なんだか違和感がある…。
気になって、整形外科を受診してレントゲンを撮ってもらうと、なんと骨折していた!
それまではそんなに痛くなかったのに、骨折が判明した直後から、急にぶつけた小指が痛くなってきた…!
これは例え話ですが、よくあるケースです。
痛みを「痛み」として感覚するまでには、組織の損傷だけではなく、それに付随する自らの感情(心)も大きく関わっているわけです。
国際的な定義を読み解いてみても、その定義から、痛みはただの感覚情報だけではなく、心の反応や痛みのとらえ方の情報を含む、様々な情報として体験されるものと解釈できます。
そしてこの定義の中で非常に重要なことは、ケガによる組織損傷から一般的に生じる正常な痛みの「急性痛」だけでなく、明らかな損傷がなくても生じる(心で感じる)痛みの「慢性痛」の存在が示されているということです。
【痛みの種類 「急性痛」と「慢性痛」】
以上のことから、定義上、痛みの種類は大きく2つに分けることができます。
それが「急性痛」と「慢性痛」です。
○急性痛とは?
急性痛とは、身体の組織が損傷された直後に生じ、痛覚受容器(痛みのセンサー)が興奮することによって生じる痛みです。原因は、損傷を受けた末梢組織(痛めた場所)やその周辺組織にある場合が多く、生体における警告信号としての意味を持ちます。
小指を椅子の角にぶつけたら、思わずともどこをぶつけたかはすぐにわかりますよね?
その直後は、またぶつけないように気を付けたり、負担をかけないように意識することと思います。
つまり、痛みは、「それ以上負担をかけないで!」という体から発せられるメッセージというわけです。
もしも、痛みを感じなくなってしまったら、身体の損傷部位の異常や警告に気づくことができず、安静をとらないことから症状を重症化させてしまう可能性もあるわけです。
そのため急性痛は不可欠なものであり、私たちにとって必要な痛みとも言えます。
特徴として比較的鎮痛薬が有効な場合が多いとされています。
○慢性痛とは?
急性痛は、組織が回復していくことで鎮静化することが多いですが、慢性痛は長引きやすく、ケガをした部分の痛みが長時間持続しているものを指します。
ここで重要なキーワードになるのが「神経の可塑性」という言葉です。
専門用語なのでなじみのない言葉ですよね。
神経系は外界の刺激に対して、常に構造的な変化を起こし、その機能も変化させることが可能なことが知られています。この性質のことを「神経の可塑性」と呼んでいます。
なんだか難しい言葉ですが、子どもが環境に応じて脳を発達させていくこと、神経の障害を受けた後の回復、記憶の結び付けなど、神経の可塑性は、「適応・回復」を促す重要なファクターとなります。
ところが慢性痛では、中枢神経(主に脳神経)において、その可塑性に異常を示すことがわかっています。
つまり、神経の回復や環境への適応にトラブルを起こしやすくなるということです。
さらにそこには、急性痛のような症状を悪化させないための警告信号としての意味がないため、私たちにとっては不必要な痛みともとらえることもできます。
特徴として鎮痛薬が効きにくい場合が多く、抗うつ薬が時に有効な場合が多いとされています。
では、なぜ鎮痛薬が無効な場合が多いのでしょうか?
1つの可能性として急性痛と慢性痛では痛みの発生メカニズムが異なる点が挙げられます。
先程も述べましたが、急性痛が組織損傷などによって生じているのに対し、慢性痛は、脳に直結する中枢神経系の可塑的異常が原因であることが分かってきています。
つまり、感じなくてもいい痛みを感じてしまっているということです。
そんなの、嫌ですし疲れますよね?
慢性痛において脳の一部である大脳辺縁系や前頭前野と呼ばれる場所などに変化が生じ、機能不全を引き起こすことが指摘されています。
うつ病においても機能不全に陥る脳部位が一致していることから慢性痛に対し抗うつ薬が時に有効とされているのです。
誤解されやすいこととして、急性痛と慢性痛は期間によって分けられがちだということです。本来は、痛みの発生メカニズムによって分けられるのが正しい認識と言えます。
【急性痛のメカニズムとその特徴】
皮膚や靭帯、腱、骨格筋などが傷つけられた直後や過度な伸張によって断裂を起こした直後は刺すような鋭い痛みを感じます。
痛みは「伝導路」と呼ばれる回路を経由して脳に伝達される仕組みになっています。
これもなかなか難しい概念ですね。
例えるなら、電車の路線みたいなものです。
綾瀬駅から東京駅まで、最短の路線でいけるルートもありますが、逆に大回りして他の路線を経由していくこともできます。
痛みの刺激はその種類により、複数の伝導路に分離され脳に伝達されます。主な痛みの種類は速度の速い「一時痛」と速度の遅い「二次痛」に分かれます。
快速列車と普通列車みたいな感じですね。
○一次痛
この痛みは、どこが痛いのか?どれぐらい強い刺激が加わったのか?を、瞬時に脳に伝え、鋭い痛みとして知覚される特徴があります。
ぶつけた時に最初に感じる「痛っ!!」というやつですね。
伝導速度が速い神経によって脊髄を経由し、脳にある大脳皮質感覚野と呼ばれる部位で痛みとして知覚されます。
快速列車で最短ルートで痛みを的確に伝えるわけです。
一次痛は一過性であり、少し遅れて鈍く疼くような痛みである二次痛へ移行、発生していきます。
○二次痛
一時痛の後、「ジーン」または「ジンジン」と残る痛みです。
残る痛みは本当に不快ですよね?
機械的刺激をポリモーダル受容器と呼ばれるセンサーが受け取り、伝導速度が遅い神経によって脊髄へ伝えられ、複数の伝導路を経由し脳の大脳皮質感覚野と呼ばれる部位で痛みとして知覚されます。
普通列車で大回りして伝える感じです。
これらの伝導路は自律神経に関係する間脳の視床下部、情動に関係する島皮質や前帯状回、記憶に関係する扁桃体や海馬などを経由するため、これらの機能にも影響を及ぼすことが知られています。
つまり、痛みは自律神経や感情、記憶に影響を与えてしまうということです。
嫌な痛みを脳が覚えてしまう?
これは一体、どういうことなのでしょうか・・・?
ここまでは「急性痛」を中心に解説してきました。
次回のコンテンツはみなさんもお悩みの「慢性痛」について、そのメカニズムや特徴についてお話していきたいと思います。
どうぞお楽しみに!
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